
「有給休暇、与えなきゃいけないのは分かっているけど面倒で処理していない」「今まで何も言われたことがない」
小規模事業主の方には、こんな「やらなきゃいけないんだけど…」という方もいらっしゃると思います。最近は、労働者のほうが法律に詳しいので、ある時まとめて請求されて慌ててしまう、というご相談も珍しくありません。
前回は有給休暇の基本的な仕組みについて解説しました。
今回は、実際に起こりうるトラブル事例と判例をもとに、「知らなかったでは済まされない」ポイントを整理します。
一度も使われたことがなかった有給休暇
【事例】
ある小規模事業所に、入社9か月目のパートスタッフから電話がありました。「今月末で退職します。残っている有給休暇10日分を買い取って、お金を払ってください」
創業から30年、有給休暇を求めるスタッフは一人もおらず、シフトもその都度連絡する運用でした。
「今まで誰も有給休暇を使ったことなんてないのに。いわれるままにお金を支払わないといけないんですか?」
【ポイント】
(1)申請がなくても付与する義務はあります
有給休暇は法律上の権利です。スタッフから申請がなかったからといって、付与しなくてよいわけではありません。
(2)退職時の「買い取り」は応じる義務はありません
原則として、有給休暇の買取は禁止されていますが、退職時に取得しきれない分を買い取ることは「可能」です。
逆に、従業員から退職時に余った有給を「買い取ってほしい」と言われても、会社に買い取る義務はありません。ただし、退職日までの間の有給申請については原則として拒否することはできません。
(3)管理簿の整備を
誰に何日付与され、残日数がいくらあるかを記録する「年次有給休暇管理簿」の作成が法律上義務付けられています。まだ整備できていない場合は、早めに対応しましょう。
上司が申請を思いとどまらせようとしたケース
【判例:大阪高裁 平成24年4月6日】
有給を申請した部下に対し、上司が「心象が悪い」「どうしてもとる必要があるのか」とメールや面談で繰り返し伝え、結果的に部下が申請を取り下げた事例です。
【ポイント】
(1)「休まれると困る」という発言は基本的にNGです
この判例では、プレッシャーをかけて取得を断念させた行為が、権利侵害と判断されました。小規模事業所では、事業主やリーダーと従業員の距離が近い分、こうした「空気」が生まれやすい点に注意が必要です。
(2)「時季変更権」のハードルは高い
会社が取得日をずらすよう求める「時季変更権」は、「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ認められます。「忙しいから」「人手が足りないから」という理由では認められにくく、基本的にはスタッフの希望通りに承認する必要があります。
就業規則のルールを理由に拒否したケース
【判例:東京地裁 令和2年2月4日】
就業規則に「有給申請は前々日までに行うこと」と定めていたにもかかわらず、従業員が前日に申請したため、会社が「ルール違反」として拒否した事例です。
【ポイント】
この判例では、就業規則で申請期限を設けていても、それより直前の申請を会社が一方的に断ることはできないと判断されました。
申請が期限を過ぎていたとしても、有給の時季指定そのものは有効です。直前申請が繰り返されるようであれば、有給の問題としてではなく、就業規則違反に対する注意・指導の問題として対応するのが適切です。
小規模事業所の事業主の方へ
有給休暇のトラブルに共通しているのは、「ルールがあいまいなまま、何となく運用してきた」という背景です。
まず取り組んでいただきたいのは、次の3点です。
- 管理簿の作成:誰がいつ取得できるかを可視化しておきましょう
- 就業規則の整備:申請方法や賃金の計算方法を具体的に記載しましょう
- 日頃の対話:繁忙期の共有など小規模事業所だからこそコミュニケーションを心掛けましょう。年間カレンダーを作成し、計画的付与を設定するのも一つの方法です。
制度を正しく理解し、スタッフが安心して休める職場づくりを、一緒に進めていきましょう。
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