
今日はメンタル疾患の職場復帰について参考になりそうな判例を紹介します。
精神疾患を抱える従業員が、本人の強い希望で復職した直後に自殺してしまった事案です。
判決を読むと、裁判所は会社側に対し、重い「安全配慮義務」を求めていることがわかります。
事案の概要
亡くなったのは、FM放送局に中途採用されたディスクジョッキー(DJ)のAさんです。
Aさんには入社前から精神疾患の既往がありましたが、入社後に体調を崩し、放送中に「いじめがある」などの不適切な発言をしたり、無断欠勤の末に自宅で自殺未遂(自殺企図)したりしていました。
会社は、Aさんを診察した医師から「臨床心理士による面談を希望している」と伝えられていましたが、特に対応しませんでした。
その約2か月後、Aさんから「10日間の休暇」の申請が出ると、会社はこれを認めました。休暇期間が終わる前に「早く戻りたい」という本人の申し出があると、会社は主治医への確認もせず、担当取締役との面談だけで復職を認めました。
復帰後もAさんは放送中に「精神的・肉体的にいつまで持つかわからない」と発言していました。復職からわずか2週間後、Aさんは自ら命を絶ちました。東京高裁(平成28年4月27日)は、会社側の安全配慮義務違反を認め、損害賠償を命じています。

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以下、この判例から考える「会社が復職の判断をする際に気をつけること」をわたしなりに考察します。
「本人の意思」は、時に症状の一部である
ここで注意すべきは「本人が働きたいと言っているから大丈夫」という判断の危うさです。
精神疾患、特に焦燥感が強い状態では、「早く戻らないと居場所がなくなる」「周りに迷惑をかけている」という強迫観念に駆られていることがあります。この「強い復職の意思」自体が、冷静な判断ができなくなっている症状の一つである場合も多いのです。
裁判所は、会社は本人の言葉を鵜呑みにするのではなく、主治医に業務内容を伝えた上で、医学的な見地から復職の可否を判断させるべきだったと厳しく指摘しています。
職場にありがちな心理や慣習
一方で、個人的には会社側の事情も、理解できなくはありません。特に放送業界のように「番組に穴を開けられない」というプレッシャーがある現場では、代替要員の調整やコストを考え、「本人がやる気なら任せよう」とつい期待したくなる心理が働くかもしれません。
しかし、中途半端な状態で復帰させることは、本人をさらに追い詰め、現場をより深い混乱に陥れる結果を招きます。精神的な不安定さが明らかな場合、現場の論理よりも「命の安全」を優先することが、結果として会社を守ることにつながります。
「死にたいと言う人は死なない」という嘘
世間では「死にたいと言う人は、実際には死なない」という言葉がまことしやかに語られることがあります。しかし、それは間違いです。
一度でも自殺を試みた(自殺企図)事実は、その人が極めて危険な状態にいることを示す最大のサインです。このサインを「一時的な感情」と過小評価してはいけません。
精神疾患の対応において、最悪の事態は「命を失うこと」です。業務の遅れやコストは後から挽回できますが、命だけは取り返しがつきません。
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まとめ:正しく復帰させるために
誤解されがちですが、「メンタルダウンした人は二度と復帰させられない」というわけではありません。正しく段階を踏んで復帰し、活躍している例もたくさんあります。
また、今回のケースはそもそも休養10日間・復帰後2週間という非常に短い期間での出来事です。月単位の休職や、休職期間満了時の退職をめぐって労使が時間をかけて検討する通常の事例とは、性質が異なります。
今回のケースを反面教師にするならば、復職を認める前に以下を確認することが不可欠です。
- 主治医が業務内容を具体的に理解した上で、復帰許可を出しているか
- 短期間の休養であっても、睡眠や体調の回復が確認できるか
復帰後も、再発していないかのモニタリングを継続してください。
- からだ:眠れているか、疲れが溜まっていないか
- こころ:落ち込みやすさや疑心暗鬼は解消されているか
- 行動:不穏な言動はないか
漫然と復帰させるのではなく、本人のためにも会社のためにも、専門家の確認を怠らないことが大切です。
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