以前にも取り上げた「年収の壁」について、少し大きなニュースが出たので、改めて社会保険関係の「壁」について解説させていただきます。
「扶養」の複雑さ 税金と社会保険
前回のおさらいになりますが「扶養」と一言で言っても、税金と社会保険とあり、それぞれが複雑な制度になっています。
ややこしいのが、それぞれに細かいルールが違うところです。
1月から12月までの実際に働いた収入(残業代込み)をみます。
通勤交通費は非課税限度額を超えない限り含みません。
社会保険の方は年収というよりは月単位でみます。
現在は51人以上の企業に勤務している人で、契約内容が月額8.8万円、週20時間以上であるかをみます。
交通費、残業代は原則含みません。
扶養に入る際は「今後の収入の推計」をみます。
入ったあとパートなど収入を得ている場合は、その時点での収入をみます。
交通費、残業代も含みます。
注意点として、一般的にマスコミ報道などでは「夫婦間の扶養」が主題になっていることが多いですが、夫婦の場合、配偶者控除があるため、お子さんのアルバイトやフリーターの方を扶養している場合よりも税金部分の控除が手厚くなっています。
お子さんのアルバイトなどだと、103万円の壁を超えると、扶養している親の所得税が上がってしまうなど大きな影響がありますので注意が必要です。
配偶者の扶養だと、インパクトが大きいのは、106万円の壁と130万円の壁ですね。
106万円の壁
106万円の壁について、2024年11月8日に大きなニュースが出ました。
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読売新聞の記事を引用すると
厚生労働省は、パートなどの短時間労働者が厚生年金に加入する要件のうち、年収106万円以上の賃金要件を撤廃する方針を固めた。「労働時間週20時間以上」の要件は残す。制度改正が実現すれば、保険料負担が生じる「106万円の壁」がなくなる一方で、「週20時間」が壁として残り、賃金水準によっては手取りの減少につながるケースも出てくることになる。厚生労働省は来年令和7年の通常国会に制度改正を盛り込んだ年金改革関連法案を提出することを目指す。
短時間労働者は、2016年10月から一定の要件のもとで厚生年金の加入対象になった。
現在は〈1〉従業員が51人以上の企業などに勤務〈2〉週20時間以上働く〈3〉月額賃金が8万8000円以上(年収換算約106万円)〈4〉学生ではない――などの要件を全て満たすと加入が義務づけられる。政府は企業規模要件を撤廃する方針を既に固めており、今後は週20時間以上働けば、厚生年金への加入を義務とする。近年は最低賃金が上昇し、週20時間程度働いた時点で年収106万円を上回るケースが増えていることが背景にある。
これにより、約200万人が新たに加入対象となる見込みだが、実際は労働を週20時間未満に抑え、加入を避ける人が出てくる可能性もある。
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このまま取り入れられると?
週20時間以上労働する人は、昼間の学生でなければ、収入や企業規模にかかわらず、厚生年金保険に加入することになります。
一般的に厚生年金と健康保険はセットなので、家族の扶養に入っている人は外れて、企業の健康保険に加入することになるのではないかと予想します。
50人以下の会社でも要件を満たせば、事業主もパート社員も、保険料負担が生じます。
その分補償は手厚くなるので損ばかりではないのですが、保険料負担への忌避感はなかなか強いものがあります。
令和7年に法改正案提出とのことなので、実際の撤廃は再来年の令和8年以降になると思いますが、インパクトの大きいニュースだったのでご紹介させていただきました。
どのくらい負担が増える?
ざっと計算すると、106万円の壁を超えると、一番低い等級だとしても健康保険と厚生年金で月々12,000~15,000円弱の負担が生じます。
企業の健康保険に加入するので、会社と労働者、両方に負担が生じます。
130万円の壁
年末も近づいたので、社会保険で特にインパクトの大きい130万円の壁について詳しくみてみます。
60歳未満で障害年金受給にも該当しない人の場合、130万円の壁を超えず、配偶者の収入の1/2を超えていなければ、配偶者の健康保険の扶養家族になることができます。
扶養に入れるかどうかは、配偶者の加入する健康保険組合や協会けんぽが決定します。
「1月から12月の収入を見る」税金の壁とは違い、どちらかというと「月単位での収入」が重要です。
一般的に、新しく扶養に入る際は「今後の収入の推計」をみます。
例えば「フルタイム勤務を8月頃に退職して扶養に入りたい人」は、1~12月の収入を見ると130万円を優に超えてしまうかもしれません。でも退職後は働く予定がなく、今後の収入がゼロであれば扶養に入ることが可能です。
(失業給付を受け取る間は外れるなど、収入を確認する手続きは発生します)
扶養家族になったあと、パートなどで収入を得ている場合は「健康保険組合や協会けんぽが調査する時点」での月々の収入をみます。交通費、残業代も含みます。
月に9万円くらいで調整しながら働いている人が、うっかり残業代や交通費込みで11万円くらいになる月が続いてしまうと、厳しい健保組合や協会では扶養を外されてしまう可能性があります。
(今のところ、事業主の証明により『一時的な収入増加である』と届出れば外れなくて済む制度もあります→年収の壁・支援強化パッケージ)
130万円の壁に関しては「配偶者の勤め先の健康保険組合や健康保険協会が判定する」という点で、対応が難しいところです。
収入のチェックを厳しく行う団体もあれば、割と寛大なところもあり、不公平感が否めません。
パート社員を雇用する会社としては、社員の配偶者の勤め先の健康保険までは把握しきれないので、本人にきちんと管理してもらう必要があります。
130万円の壁を超えると、配偶者の健康保険の扶養から外れなくてはいけなくなり、国民年金第三号被保険者ではなくなるので、国民健康保険と国民年金の保険料負担が生じます。
国民年金だけで月16,980円(令和6年現在)ですし、国民健康保険料もいれると確実に2万円~3万円、1ヶ月の負担が増えます。
上の「106万円の壁」と違って、保障内容は変わらないのに負担は増えるので、これは本当に避けたいという方が多いです。
まとめ
このように、一口に「扶養」といっても細かい違いがあり、非正規で働く人も、ご家族も、パート社員を雇う会社も、色々と頭を悩ませるところです。
私達も個別にご相談いただくときには、つい確認や回答が長くなってしまいます。
「扶養に入れます、大丈夫ですよ」と言ってしまって、実はダメだったなどになると、遡って保険料負担が生じたり、税金の徴収が生じたりと大変なご迷惑になってしまいますから。
企業としてはこういった壁を気にして就労制限をするパートの方について、どう扱うのかも悩みどころですよね。
色々と判断が難しい面もあるかと思いますが、人事労務のプロとして、お手伝いできることがありましたら幸いです。
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