
※本記事は、実際に複数の相談事例を組み合わせ、アレンジを加えて記載しています。特定の事業者や個人を指すものではありません。
小規模事業者からの労務相談で、よくこんなご要望をいただきます。
「従業員とトラブルになっているので、絶対に揉めることのない労働契約書や就業規則を作りたい」
お気持ちはよく分かります。法的に完璧な書類があれば、従業員から文句を言われることもなく、トラブルを未然に防げる。そう考えるのも無理はありません。
ただ、人間には感情があるので、すでに起きてしまった揉めごとは書類では解決しないことが多いのです。ではこういったときどうすればよいか、解説します。
事業者の「主観」と「客観」
例えば、よくあるご相談でこんなものがあります。
事業主側の主観
・指示を聞いてくれない従業員に困っている
・体調不良や家族の都合ばかり言う
・主張が激しく、対応に困っている
詳しく聞いてみると「客観的に事業主の落ち度では?」という部分
・解雇要件を満たさない状況で、軽い気持ちで「辞めたほうがいい」と解雇と取られかねない言動をした
・労働条件の明示をしていなかった
・細かな残業代の未払いが存在していた
・有給休暇を与えておらず、労働基準監督署から指導を受ける事態になっていた
相談に来る事業主の方は、多くの場合善良で、悪気はなく、「自分たちは被害者」というスタンスで考えています。「制度が難しすぎる、小さな会社には対応できない、今時の若者は感覚がおかしい」と無料相談窓口で訴えるけれど、本格的な顧問契約や弁護士への相談は、お金がかかるので避けたがる場合が多いです。(事業主としては懐事情が厳しいのでしょうから責めるつもりはありません)
問題の本質
こういったケースで助言が難しいのは、多くの場合、相談窓口に来る時点で、事業主と従業員の間ですでに感情がこじれてしまっているという点です。
そのこじれた関係、気まずい毎日、従業員や家族から責められる日々を、書類で解決しようとするのは難しいのです。従業員が身勝手で、強い口調で家族も交えて事業主を責めてくるとしても、いや、そうであればなおさら、書類でコントロールするのは無理です。
この状況で、いくら立派な労働契約書や就業規則を整えても、過去に起きた感情のこじれは解決しません。

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行政機関の相談窓口では限界がある
最近の労働基準監督署や社労士の無料相談窓口は、事業主にも労働者にも厳しく指導しないケースが増えています。事業主の明らかな法違反にもきつい言葉で指導したりせずに「これから気をつけましょうね」「何日までに対応して下さいね」という感じの、優しめの対応が多いです。
労働法の教授が言っていましたが、日本の労働基準監督官は、大変優秀なのだそうです。ですが、労働法違反やトラブル発生の多さに対して、取り締まりが追いついていません。
事業主は「厳しく怒られていないから、そんなに悪いことではないんだな」と自分たちの落ち度を小さめに評価し、専門家は「事業主の法違反」を前提にしつつ優しく助言する---両者の間に温度差が生まれて話が噛み合いません。
特に無料相談窓口では、担当者が日によって変わり、アドバイスの視点もバラバラになりがちです。相談者の話が整理されないまま長期化することも少なくありません。
では、どうすればいいのか
冒頭の事業主からのご質問については、法的な要件を満たした書類の整備は必要だが、それだけで揉め事が解決できると思わないでほしい、という感じです。すでに感情がこじれている場合、当事者同士での話し合いは困難です。そんなときは、第三者を交えた解決を検討されることをオススメします。
裁判外紛争解決手続き(ADR)の活用
「裁判は高額で時間もかかる」というイメージがあるかもしれません。しかし、以下のような選択肢があります
・労働局の(労働相談、助言・指導、あっせん)リンク
・社会保険労務士会労働紛争解決センター リンク
・労働委員会のあっせん リンク
これらは無料~低コストで、専門家が間に入って話し合いを進めてくれます。
事業主と労働者、当事者間では解決できない労働問題について、第三者を交えて話し合う選択肢として、ぜひご検討下さい。
「書類を整えれば安心、とはいえません」という関連記事
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