「メンタルヘルス」対策と言われても日々業務に追われている企業の方には必要性を感じないかもしれません。
「みんな残業して忙しいんだからそんな人に関わってられないよ」
今回の記事ではあらためて、職場のメンタルヘルス対策が必要なのか?社会保険労務士の立場から説明します。
具体的には
・今の社会的背景
・法律や国の指針
・対策をしないことによるリスク
について説明していきます。
クソ忙しいのにメンタルヘルス対策なんて考えてられない。
という経営者の方へ、少し手を止めて読んでいただけると幸いです。
ざっと社会的背景を説明します
厚生労働省の発表「令和2年度『脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況』まとめによると、
令和2年度の
精神障害等による労災請求件数は 2051件 6年連続過去最高だった令和元年からは9件減少しました
労災補償の支給決定件数は 608件 令和元年から99件増加業種別で請求件数が多いのは
「医療,福祉」488件、「製造業」326件、「卸売業,小売業」282件の順で多く、
「医療,福祉」の中でも「社会保険・社会福祉・介護事業」が請求件数、支給決定件数ともに最多となっています。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19299.html
たくさんいる労働者の中の2000件くらいならそれほど多くないのでは?と思ってしまいそうになりますね。
しかし、ちょうど10年前の平成22年度同じ調査では労災補償の「請求件数」は1,181件、労災補償の「支給決定件数」は308件だったので、単年では少ない減少はありますが、大局的には10年間で増加していることが伺えます。
そのため、国では法整備を強化したりガイドラインを制定したりすることで対策を講じています。
法律
労働安全衛生法
長時間の時間外労働により疲労が蓄積すると、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされています。
このことから、企業に労働時間管理を講じさせるため
2005年10月の労働安全衛生法改正により、
長時間労働者に対する医師による面接指導が義務化
面接指導の対象は、1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者
2018年 働き方改革関連法によるさらなる改正により、
高度プロフェッショナル制度の対象労働者についても医師による面接指導の対象とされました。
高度プロフェッショナル制度・・・専門的かつ高度な職業能力を持つ労働者を対象に労働時間に基いた制限を撤廃する制度ですが、対象労働者も面接指導の対象になりました。
労働契約法
2007年12月に労働契約法が制定され、
「使用者は、労働契約に伴い労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
と規定され、会社側の労働者に対する安全配慮義務が明文化されました。
厚生労働省の指針
厚生労働省では、民間企業のメンタルヘルス対策を促しています。
その指針では
①労働者自身による「セルフケア」
②管理監督者による「ラインケア」
③産業医、衛生管理者等による社内産業保健スタッフによるケア
④社外の医療スタッフや相談機関等によるケア
を、継続的かつ計画的に行われることが重要であるとしています。
具体的になにをすればよいのか?
「すぐにでも相談したい」という方は無料相談よりご連絡ください。
リスクマネジメントの観点から
長時間労働等の業務によってうつ病にかかるなど従業員がメンタル不調になり、自殺に至るケースも増加しています。
そのような場合、たとえ労災保険等が支給されてもそれでカバーできない損害を補填するために、従業員の遺族が民事訴訟で損害賠償請求を提起することもあり、1億円を超える高額な賠償請求が認められた例もあります。
というと、企業を脅すようで嫌なのですが、民事賠償責任を避けるというリスクマネジメントの観点からも無視できない問題となっています。
メンタルヘルス対策の必要性
精神疾患による労災保険の請求件数は増加傾向にあります。
単純に心の弱い人が増えたというよりは、今は情報へのアクセス、収集、専門家への相談が容易であることが理由の一つにあります。
そのこと自体は悪いことではないのですが、労働者の意識の変化によって企業が「選ばれる立場」になっていることは十分に考えなくてはいけません。
具体的には、労災請求を起こされた企業、起こされないまでもメンタル疾患での休職者を立て続けに出すような企業は、いわゆる「ブラック企業」として労働者から敬遠される可能性があります。
メンタル疾患により休職や退職に至ることは、労働力の低下に繋がりますし、他の社員への負担を増やします。
仮にその人がやめたとしても、会社に潜む問題が変わらなければ別の人が発症するリスクとこれからも付き合っていくことになります。
「みんなこうだから」「自分の時代はこうだったから」が通用しない流れが加速しているため、社員を大切にすることが令和の企業には求められているのです。
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