2024年9月発行の『雨の日の心理学 /角川書店/東畑開人』は、臨床心理士・公認心理師の東畑開人氏による、心理学初心者向けの「こころのケア」について書かれた一冊です。
読む前は「心理学」と聞いて難しそうな印象を受けましたが、「プロではないケアをする人」に向けて、授業形式の親しみやすい口調で書かれているため一気に読むことができました。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322312001205/
本書を手に取ったきっかけ
社会保険労務士を開業したときから「働く人のメンタルヘルスに関わる仕事をしてみたい」と漠然と考えていました。
医療者でも臨床心理士でもない自分でも読める「心理学の入門書」はないかと探していたときに見つけたのがこの本でした。
「日常生活でのケア」に役立つ視点を学べるようにみえて、心を惹かれました。
心に残った言葉
この本には「持続可能なケア」というテーマが繰り返し登場します。特に印象的だったのが以下の一節です。
「ケアは持続可能な程度の負担にしておく必要がある」
「相手を孤独にしないためには、ケアする側も無理しないことが大切」
介護やケアは終わりが見えないため、無理をせず、自分の健康を守る重要性を再確認しました。
「ケアする人が元気であること」は、相手にとってもケアの質を保つ鍵なんですね。
また、こんなユーモラスな表現も心に響きました。
「ケアは無限に失敗する営み。野球でいうと2ストライク14ボールくらいの感じ」
社労士として労働相談窓口で対応するとき「なかなかうまくいかないな」と考え込んでしまうことが多いです。
労働相談一つとっても、法律や手続きの知識できれいに答えられたらよいのですが、人間関係、考え方の違い、感情のこじれなどが絡むと、一筋縄ではいきません。
「ちゃんとかかわろうとしてきた歴史が、14ボールという記録に刻まれています」
という言葉が救いになりました。
「こころのケア」とは話は変わりますが、私は視覚障がい者の方とランニングをするチームに入っています。
介護のプロではないので、声掛けなどは未経験から練習して身につけましたが、今でも勉強中です。
この本を読了した2日後に、ブラインドランナーの伴走でハーフマラソンを走りました。
曲がり角の案内や、道の凸凹の声掛けがスムーズにいかない部分もありましたが、制限時間内に完走できたこと、パートナーが「楽しかった」といってくれたことが心に残りました。
以前だったら「うまくいかなかったところ」を反省して何日も引きずってしまったかもしれませんが「2ストライク14ボール」を思い出して気持ちを保つことができました。
この本をおすすめしたい人
本書は、ケアに関わるすべての人におすすめです。
友人から相談を受けてちょっと疲れたことがある人、親しい人が落ち込んでいるときにどう対応したらよいのかと不安に感じている人、介護やケアについて深刻な悩みを抱えている人、どのレベルの人にもオススメです。
初心者向けの授業形式なので、気になったところを復習できるのも魅力です。
さらに、専門的な心理学の知識も噛み砕きつつ取り上げられており「もっと勉強したい人のためのブックガイド」として参考文献がまとめて紹介されているため、発展的に心理学を学びたい方にも親切な構成になっています。
最後に
『雨の日の心理学』は、誰もが日常の中で「ケアする人」になり得ることを教えてくれます。
そして、そのケアが「持続可能」であるためにどうすればよいのか、わかりやすい言葉で語りかけてくれます。
読後には、他者に寄り添い「わからない」が「少しわかる」ようになった、豊かな日常が待っているかもしれません。